『科学が『ニセ科学』を糾弾できない本当の理由』への反論

これを読んだとき,「誰に対して書いてるんだろう?」と思ってしまいました.対象が,学習指導要項を作っている文科省や関係者に対してなら,このくらいひねくれた主張の方が通るのでしょうか?しかしながら,以下で引用するように,科学そのものを対象に書いたと考える方が妥当でしょう.だとすると,指摘すべき点が多いように思えます.

しかし、科学者自身がニセ科学を批判するには人類が築き上げてきた科学は脆弱すぎる。

科学がニセ科学を糾弾できない真の理由はを知るには『進化論』問題を見れば解るだろう。

なぜ進化論がニセ科学かは、具体的に事例を出してゆ行けば自ずと結論がでるのだが、これは実に根が深い問題である。

(中略)

現在、進化論のような理論が提唱されても学会で否定されるであろう。

このような証左を求めることが出来ない存在は現在の科学では入り込む余地がない。

つまり,「進化論は反証不可能だからニセ科学」であると,この著者は言っているわけです.とことん反証しておいてそりゃ無いだろうと,はてブにコメントを書いた人も思ったことでしょう.

・現在の科学では動物の種の壁を越える手段を持ちえていない

人と猿は近い種と考えられているが子供を作ることは出来ない。そこには明確な断絶があり、どのような手段で『進化』がこの壁を乗り越えることが出来たかは今だ明確な説明できない

現在、進化論のような理論が提唱されても学会で否定されるであろう。

このような証左を求めることが出来ない存在は現在の科学では入り込む余地がない。

猪から豚が、狼から多種多様な犬が生まれたからといって、進化はあると言うのは紛れも無いニセ科学的な論法である。事、人間に関してはミッシングリンクなどと言う名称までつけて事の解決を図ろうとしているが、これは現在は実証しようがないと認めているに等しい行為である。

これがなぜニセ科学的側面になるのか理解に苦しみます.ただ単に,ダーウィニズムでは説明不可能な事例があったというだけの話でしょう.そんなことはダーウィニズムに限らず,ニュートン力学にもありましたよね.それから,ミッシングリンクは問題点に対する命名ですよね.これで事の解決を図ろうとしている科学者はいません*1

・豊富な状況証拠から導き出される陳腐な結論

進化論をやっかいなニセ科学にしている理由に多種多様な化石の存在がある。

時代ごとに明確に異なる形の生物が存在したのは事実である。

そして、始祖鳥*2を筆頭に恐竜から鳥が、魚から両生類が、両生類から爬虫類が…と言うように進化したと言われている。しかし、これを証明できるほど遺伝子工学は進歩していないし、結論は別のものであると考えたほうが遥かに健全であろう。今の段階でこの希望的観測を学校の授業に取り入れるのは間違いである。

下のエントリに書きましたが,遺伝と進化は別物です.もちろん,物理学が万有引力を量子で説明しようとするように,生物学でも進化を遺伝によって説明しようとすることに問題はありません.むしろ,オッカムの剃刀的には進化を遺伝によって説明できた方がスッキリします.現在の遺伝子科学ではできていないというだけの話であり,だからといってニセ科学であることの理由にはなりません*3

私の意見を言わせていただけば,こういう今まさに問題となっているホットな分野を学校の授業で扱う方が,科学についての正しい認識を教えられる気がします.きちんと「人間についてはまだ説明できてないので,世界中の研究者が問題を解決すべく研究に励んでいます.将来は全く異なる概念が打ち出されて,それが正しい解釈になる可能性があるんです.」と説明すれば良いのです.今では冥王星の実例があるから,学生も受け入れ易いのではないでしょうか*4

しかし進化論では、状況証拠から結論を予測するしか出来ない。これは間違いを必然的に孕む手法であり、何より間違いを正す手段が無い。

どうしてこうなってしまうのでしょうか?ビッグバン仮説やインフレーションと同じことなんですけどねぇ.宇宙背景輻射という状況証拠から,過去に起ったであろうビッグバンを仮定することと何が違うんでしょう?このような仮説の設定は,科学において不可欠です.言い換えれば,仮説の設定は正当な科学の一部です.その代わり,仮説は反証可能である必要があります.ダーウィニズムは反証不可能でしょうか?違いますよね.現にこの著者は何度も反証してるじゃないですか.

現在、進化論のような理論が提唱されても学会で否定されるであろう。

要するに,ダーウィニズムは理論じゃないんですよ.進化という現象を説明できる仮説のひとつでしかありません.そして,反証可能性を持っているため,ニセ科学でもありません.ネオダーウィニズムも理論ではありませんが,そちらは大いに間違った方向を向いていたため,現在それを正しいと信じる科学者は少ないのではないでしょうか?詳しくは下のエントリで書きます.

*1:そういう人は科学者とは呼べない

*2:引用者補足:始祖鳥は鳥の先祖じゃない説が濃厚です

*3:黒体輻射のスペクトル分布を説明できないけど,ニュートン力学は今も昔もニセ科学じゃないですよね.対象領域が違うんですよ.

*4:もちろん,「現状そうなっていないじゃないか」という指摘もあるでしょうね.残念ながら私は,初等教育現場の実体を良く知らないので,教育現場での現状については何も言えません.