ダーウィニズムはニセ科学じゃない

進化は過去形であり,遺伝は現在形です.進化は大きな時間スケールで現われる現象であり,遺伝は小さな時間スケールで現われる現象です.進化と遺伝をごっちゃにしてはいけません.

タイトルに書いたとおり,ダーウィニズムニセ科学ではありません.ダーウィンは,遺伝する形質が変化するとき,次の世代に継承される形質は,可能な形質のうちの一部でしかなく,選択的であることを明らかにしました.これを自然選択といいます.どのようにして明らかにしたのでしょう?まともな観測技術が無い時代です.ダーウィンは「化石から得られる記録」などを観測することで,自然選択に辿り着きました.この辺りの話は,数あるダーウィニズムの啓蒙書に書かれているので有名ですね.

ダーウィンが提唱した自然選択は,化石などの「記録」がなぜそうなっているかを説明する概念のひとつであり,進化と呼ばれる現象を説明するために必要な条件の候補です.形質の選択と,環境による淘汰を合わせると,化石による記録を説明できるわけです.ここでダーウィンは「形質」を仮定していますが,形質の媒体までは言及していません.また,化石による記録は時間スケールが非常に大きいことにも注意すべきです.

一方,メンデルはエンドウマメを使った有名な実験により,遺伝に関するひとつの法則を発見しました.こちらは,繰り返し実験を行う事で統計的に得られた自然法則の期待値です.ダーウィンの場合とは異なり小さな時間スケールが対象となります.実際に目の前で起った現象を観測しているので,こちらは現在形でしょうか.逆に,ダーウィニズムのような仮説は過去形と言って良いと思います.ちなみに,現在形とか過去形という言い回しは,次の本を参考にしました*1

内部観測 (複雑系の科学と現代思想)

内部観測 (複雑系の科学と現代思想)

ダーウィンの死後,彼に続く進化論者が自然選択とメンデル則を組み合わせてしまいました.それがネオダーウィニズムです.きっと,ダーウィンが仮定した「形質」を担うものとして,メンデルが提案した遺伝子が適任だったのでしょう.しかし,この組み合わせは破綻します.上述のように,ダーウィニズムとメンデル則では対象が真逆なんです.ふたつは組み合わせられるものではなくて,誤解を恐れず例えると,熱力学と統計力学のような関係にあるべきなんです.だからネオダーウィニズムは失敗しました*2.だからと言って,ダーウィニズムが間違っているわけではありません.同様に,メンデル則が間違っているわけでもありません.両者はそれぞれ独立している仮説と法則です.

遺伝と進化に関しての最先端は分子生物学になるのでしょうか.この分野のうち,遺伝子解析によって種間の関係等を調べている研究者は,きっと遺伝の連鎖を時間軸上でくりこむことで進化を導出しようとしているのかもしれません.これを読んでくれた専門家の皆さん,よかったら個人的に教えてくださいw

*1:ちなみに,この本でも,観測や経験という点からダーウィニズムとネオダーウィニズムの違いを論じている節 (p.28-) があります.

*2:ここで重要なのは二者の関係性です.マクロとミクロってやつです.