量子が変える情報の宇宙 (0)
- 作者: ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー,水谷淳
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2006/03/23
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 19回
- この商品を含むブログ (18件) を見る
- L. E. Boltzmann (ボルツマン)
- S. F. B. Morse (モールス)
- C. E. Shannon (シャノン)
- R. T. Bayes (ベイズ)
- A. Einstein (アインシュタイン)
- N. H. D. Bohr (ボーア)
- R. P. Feynman (ファインマン)
- E. R. J. A. Shrödinger (シュレディンガー)
- A. Zeilinger (ザイリンガー)
正直に言うと,帯だけ見て買っちゃいましたwww
で,本当に面白そうなので,数回に分けて本の紹介をし,最後に書評として感想をまとめてみたいと思います.
今回はプロローグ.プロローグは,J. A. Wheeler (ウィーラー)*1 が主役です.彼は,Feynman や H. Everett (エヴェレット) らの師匠です.さらに,ブラックホールやワームホールなどの言葉を作ったことでも有名.しかし,それだけじゃない.そこがプロローグの題材です.
Wheeler は有名になるに従って,普通の物理学者にはできないことをやるようになったんです.引用してみましょう.
・・・彼は単に,科学の世界に楽しさを取り戻してくれただけに留まらない.むしろ彼は,何世紀もの間禁じられてきた,物理学に形而上学を復活させるという業さえもやってのけたのである.私は学生時代,物理学は自然界の「どのように」を探るものであり,「なぜ」を解き明かす役割は哲学や神学に任せておけ,と徹底的に教え込まれた.しかし大半の人々は,少なくともある程度のところまでは,「なぜ」を知りたいと心から望んでいるし,科学者も心の奥底では密かにそう思っている.・・・彼は,「どのように」という問題に答える上で大きな成功を収めたことで,「なぜ」を問う資格を得たのだ.すなわち,哲学者ウィーラーは,物理学者ウィーラーの名声から権限を授かり,それによって仲間の科学者たちを奮い立たせ,彼らに自分の後を付いてくるようにと促しているのである.
そう,科学とは,how を探り,why を問わない学問なのです.why なんて科学的に答えられるかどうか分かりませんから.Wheeler は,科学者たちに『真のビッグ・クエスチョン』と呼ばれる5つの why を投げかけました.
- なぜ世界は無ではなく,何ものかが存在しているのか?
- 原子の世界が,日常の古典物理学ではなく直感に反する量子力学に支配されている理由を,単純かつ納得のいくように説明せよ.
- 宇宙は,完全に『あちら側』に存在していて発見されるのを待っているのではなく,我々が問いかける疑問やそれに答えることで得た情報そのものによって,宇宙の一部が形作られるのか?
- 意味という概念を定義するにはどうすればよいか?
- “IT” すなわち物質世界は,その全体あるいは一部が,“BIT” すなわち情報から作られているのだろうか?
最初の問題,「なぜ世界は無ではなく,何ものかが存在しているのか?」は,Wheeler にはじまったことではなく,もっともっと昔からある問題です.しかし,物理学の問題ではなく哲学の問題でした.それを Wheeler は物理学に持ってきたんですね.この問題って,考えなくても深いことは分かりますが,少し考えただけで自由意志の問題とリンクしたりします.一筋縄ではいきません.
それで,この本と関連する問題は最後の,「“IT” は “BIT” から成るか?」です.Wheeler は,「いつか我々は,物理学全体を情報という言葉で理解し表現できるようになるだろう」と考えていました.上で名前を挙げた Zeilinger はその心を引き継ぐ者です*2.そしてこの本は,情報があらゆるものの究極の種であると説く Zeilinger の原理を,最終章である第25章で紹介しています.
この本では,Zeilinger の原理へ向かう為,二つのビッグ・クエスチョンを読者に投げかけます.一つは「情報とは何か?」,そしてもう一つは「“IT” は “QUBIT” から成るか?」です.二つ目の問いは,Wheeler が投げかけた5つ目のビッグ・クエスチョンが,現代風に翻訳され,量子情報の要素を帯びた形になったものです.これ以降を読むのがとても楽しみで仕方ありません.